後期高齢者医療制度についてご存知でしょうか?ここでは75歳以上の方が安心して暮らせる制度、後期高齢者医療制度についてわかりやすく解説します。
後期高齢者医療制度について、下記のような悩みはありませんか?
・制度のポイントは?
・いつから対象になるか?
・届け出に必要な書類は?
・自己負担費用はどうなるか?
・保険料はどのようになっているか?
・医療費が高額になったときはどうなるのか?
本記事は社会保険の専門家である母の監修の下、執筆しました。
本記事では、下記の順で解説します。
後期高齢者医療制度とは
後期高齢者医療制度は、老人医療費を中心に国民医療費が増大する中、現役世代と高齢者の負担を明確にし、公平でわかりやすい制度とするため、75歳以上の方を対象にした高齢者医療制度です。
これは75歳以上の方が加入する医療制度で、75歳の誕生日を迎えると、それまで加入していた国民健康保険や被用者保険(健康保険や共済組合等)から後期高齢者医療制度に移ります。
このとき、特別な手続きをする必要はなく、誕生日と同時に自動的(強制的)に国民健康保険や被用者保険(健康保険や共済組合等)から脱退および後期高齢者医療制度に加入となります。
後期高齢者医療制度の高額介護合算療養費については、以下で解説していますので御参考にして頂ければ幸いです。後期高齢者 高額介護合算療養費の限度額、計算、申請をわかりやすく解説
保険料算定については以下を御参照下さい。
後期高齢者医療制度の保険料算定について詳しく解説
老人保健法が廃止され、長寿医療制度が始まった目的と背景
この後期高齢者医療制度は、2008年(平成20年)4月から「老人保健制度」が廃止され、代わりに始まった制度です。
後期高齢者医療制度が2008年(平成20年)4月1日よりスタートしましたが、なぜ老人保健法が廃止され、新しい制度へ移行することとなったのでしょうか?
後期高齢者医療制度(長寿医療制度)が始まった目的、背景は以下の1~3の通りです。
- 高齢者の医療費を安定的に支えるため
- 高齢者と若い世代が公平に医療費を負担するため(負担割合を明確にするため)
- 高齢者に対する医療、介護サービスの質を維持、向上するため
制度のポイント
後期高齢者医療制度のポイントは以下の6つです。
② 75歳以上(一定の障がいがある場合は65歳以上)の方が、後期高齢者医療制度の被保険者となります。
③ 医療費の1割(現役並み所得者は3割)を患者本人が、医療機関の窓口で支払います。
④ 保険料は被保険者一人ひとりが、お住まいの市町村へ納めます。
⑤ 新しい被保険者証(以下、保険証)が1人に1枚交付されます。
⑥ 保険証の有効期限は、原則として毎年8月1日から翌年7月31日までです。
対象者と対象時期、届け出について
対象者と対象期間
対象者となる方と対象となる時期は以下の通りです。但し、生活保護受給者や外国人で在留期間が3ヵ月以内のある方などは対象外です。
対象開始時期: 75歳の誕生日から
対象開始時期: 市区町村に申請し、認定を受けた日から
届け出
本記事の「後期高齢者医療制度とは」でも記載しましたが、75歳以上であれば基本的に特別な届け出は必要ありません。
しかし、一定の障がいの認定を受けようとする方は、障がいの状態を明らかにする必要があるため、以下のどれか1つを現在所有している保険証と一緒に市区町村の窓口に提出して下さい。
・障害年金証書
・身体障害者手帳
・医師の診断書 等
ここでいう、一定の障がいとは、身体障害者手帳の1~3級と、4級の一部の障がい、療育手帳のA判定、精神障害者手帳1~2級等を指します。
障害の認定の申請は任意ですので、75歳になるまではいつでも申請可能です。またいつでも撤回可能です。
自己負担費用について
自己負担割合
自己負担の割合は、収入により1割または3割負担となります。これは収入に基づき算定されます。
ご自身の負担割合は、保険証(後期高齢者医療被保険者証)に記載されていますのでご確認下さい。被保険者には1枚ずつ交付されています。
医療機関にかかるときの自己負担
病気やけがで医療機関にかかるときは、窓口に保険証を提示すれば、かかった医療費の1割(現役並み所得者は3割)の負担で受診できます。
[table id=9 /]医療費を全額自負担したとき(療養費の支給)
次のような場合で、医療費の全額を支払ったとき、市区町村の担当窓口に申請して認められると、自己負担額(1割または3割)を除いた額があとから療養費として支給されます。
- 急病などで保険証を持たずに受診したとき
- 医師が必要と認めた、コルセットなどの補装具代がかかったとき
- 医師が必要と認めた、あんま・はり・きゅうなどの施術を受けたとき
- 海外渡航中に治療を受けたとき(治療目的の渡航は除きます)
- 骨折やねんざなどで、保険診療をあつかっていない柔道整復師の施術を受けたとき
入院したときの食事代等(入院時食事(生活)療養費)
入院したときの食事代等は、定められた費用(標準負担額)を自己負担することになります。
世帯の全員が住民税非課税(低所得者Ⅰ・Ⅱ)の場合は、入院の際に「限度額手適用・標準負担額減額認定証」が必要となりますので、市区町村の担当窓口に申請してください。
入院時食事療養費(一般病床、精神病床などに入院したとき)
食費の標準負担額(1食あたり)
[table id=10 /]
*1 指定難病患者と、平成28年3月31日において既に1年を超えて精神病床に入院しており、平成28年4月1日以降も引き続き入院している方は260円。
*2 低所得者Ⅱに該当し、過去12ヶ月で入院日数が90日(限度額適用・標準負担額減額認定証(区分Ⅱ)の認定・交付を受けている期間に限る)を超える場合は、お住まいの市区町村の担当窓口で長期入院該当申請をして下さい。
保険料について
後期高齢者医療制度の令和2年度と令和3年度の保険料は全国で増加しました。
以下、保険料について詳しく解説します。
保険料の特徴
後期高齢者医療制度の保険料には、以下のような特徴があります。
- 都道府県ごとに設置された広域連合によって決められる
- 定額の「均等割額」と、収入に比例した「所得割率」の組み合わせで計算する
- 所得割額は「(総所得金額ー基礎控除額33万円)×所得割率」で計算する
- 保険料の改定は2年に1度行なわれており、令和2年度は改定の年にあたる
- 年金から天引きで徴収されるのが基本である
- 保険料を軽減する制度が多く用意されている
例えば、東京都の保険料は、均等割額の被保険者一人あたり44,100円に、所得割額の賦課のもととなる所得金額×8.72%を加えた金額になります。
特徴の最後に記載した「保険料を軽減する制度が多く用意されている」についての補足ですが、保険料が収入に応じた軽減制度が用意されており、収入が少ない時の負担が極端に軽くなります。例えば次のような軽減制度が用意されています。
- 収入が年金なら「公的年金控除」で120万円引き
- 均等割軽減割合は最大7割軽減
- 年金所得については「高齢者特別控除15万円」を差し引いた額で判定
- 社保/共済の元被扶養者も軽減対象
- 保険料の年額は上限で64万円
保険料額
保険料の全国平均額(令和2年度)
令和2年度の保険料の全国平均額は平成 30・令和元年度の 5,958 円から 439 円(7.4%)増加しました。
・ 平均保険料額(年額):76,764 円(平成 30・令和元年度 71,492 円)
(月額): 6,397 円(平成 30・令和元年度 5,958 円)
保険料(均等割額+所得割率)の増加の内訳
・ 被保険者均等割額(年額):46,987 円(平成 30・令和元年度 45,116 円)
(月額): 3,916 円(平成 30・令和元年度 3,760 円)
・ 所得割率:9.12%(平成 30・令和元年度 8.81%)
都道府県ごとの格差問題
都道府県ごとの保険料差が拡大しています。
後期高齢者医療制度は、都道府県ごとに設置された広域連合が運営しており、保険料も都道府県ごとに決定されています。広域連合が決定するのは、みんなで共通に払う「均等割」の金額と、その世帯の収入によって変わる「所得割」の所得割率です。
都道府県ごとに見ると、47都道府県の全てで保険料が上がりました。この2つの数字は、各地域の状況に応じて設定されるため、都道府県による差が大きくなっています。
例えば、均等割の全国平均は“年額”で「46,987円」、所得割率の全国平均は「9.12%」です。一人あたりの“月額”の平均保険料は「6,397円」となります。
保険料が一番安い岩手県は「均等割額(年額):38,000円」と「所得割率:7.36%」です。一番高いのは福岡県で、「均等割額(年額):54,111円」と「所得割率:10.77%」です。
一人あたりの平均保険料には、住民の所得が影響するので、制度だけでは決まりません。実際に一人あたりの“月額”の平均保険料では秋田県は「3,944円」で最も安く、東京都は「8,421円」です。
[ad01]高額療養費について
複数の病院・診療所・調剤薬局等で受診されている場合や同じ世帯に被保険者が複数いる場合などで、月の1日から末日までの1か月ごとの自己負担額の合計額が下表の限度額を超えた場合は、超えた額を広域連合が払い戻します。
自己負担限度額
平成30年8月診療からの1か月の自己負担限度額(3割)
[table id=11 /]
平成30年8月診療からの1か月の自己負担限度額(1割)
[table id=12 /]
- 区分Ⅱは、住民税非課税世帯であり、区分Ⅰに該当しない方。
- 区分Ⅰは、住民税非課税世帯であり、世帯全員が年金収入80万円以下で、その他の所得がない方。または、住民税非課税世帯であり、老齢福祉年金を受給している方。
- 区分Ⅰ、Ⅱの方は、「限度額適用・標準負担額減額認定証」を提示することにより、医療機関の窓口での自己負担額が上表の自己負担限度額までとなります。
- 計算期間1年間(毎年8月1日~翌年7月31日)のうち、基準日時点(計算期間の末日)で負担割合が1割の被保険者については、計算期間内に負担割合が1割の月の外来の自己負担額(月間の高額療養費が支給されている場合はその額を除く)を合算し、144,000円を超えた場合に、その超えた額が後日払い戻されます。
- 平成30年8月診療以降、負担割合3割の被保険者については、1か月に外来のみの受診であっても、「外来+入院(世帯ごと)」の自己負担限度額を用いて、高額療養費を計算します。
- 多数回とは、過去12か月間に4回以上高額療養費の支給があった場合、4回目以降から適用になる限度額を指します。ただし、「外来(個人ごと)の限度額」による支給は、多数回該当の回数に含みません。
- 後期高齢者医療制度の「特定疾病療養受療証(マル長)」をお持ちの方は、医療機関の窓口に提示することで、特定疾病の治療にかかる自己負担限度額が1レセプトあたり月額1万円までとなります。
注意点
高額療養費の計算方法
- 個人ごとに外来の1か月分すべての自己負担額を合算し、「外来(個人ごと)」の限度額を差し引き、外来分の高額療養費を計算します。
- 同じ月に外来と入院の両方を受診している場合や、同じ世帯に被保険者が複数いる場合は、外来の自己負担額(限度額まで達している場合は限度額と同額)と入院の自己負担額を世帯で合算し、「外来+入院(世帯ごと)」の限度額を差し引き、世帯での高額療養費を計算します。世帯に複数の被保険者がいる場合は、世帯員ごとの自己負担額に応じて高額療養費を按分します。
- 上記1+2が支給されます。
<平成30年8月診療からの負担割合3割の方の高額療養費計算について>
- 同じ月に受診した外来、入院の自己負担額を世帯で合算し、「外来+入院(世帯ごと)」の限度額を差し引き、高額療養費を計算します。世帯に複数の被保険者がいる場合は、世帯員ごとの自己負担額に応じて高額療養費を按分します。
- 上記1が支給されます。
手続き方法
手続き方法には大別して2つの方法があります。
1つ目は、75歳になった時点で事前に申請する方法。2つ目は、広域連合から支給額が載った通知書が送られた後に申請する方法です。
高額療養費の支給対象となった方には、診療月から最短で3か月後に広域連合から支給額が載った通知書が送られます。後述の高額療養費支給申請書に本人の口座情報を記載し登録すれば、以降は自動的に振り込まれます。
区市町村へ申請する際に必要な書類等
- 高額療養費支給申請書(該当した方に広域連合から送付されます)
- 本人確認ができる身元確認書類(後期高齢者医療被保険者証、運転免許証、パスポート等)
- マイナンバー(個人番号)が確認できる書類(通知カード、個人番号カード等)
- 認印(朱肉を使用するもの)
- 口座が確認できるもの(通帳やキャッシュカードを持っていくこと)
- 委任状(代理人が申請や受領をする場合のみ)
限度額適用認定証
自己負担額が3割の方で、同じ世帯の後期高齢者医療被保険者全員の住民税課税所得がいずれも690万円未満の場合は、申請により「限度額適用認定証」の交付を受けることができます。
医療機関等の窓口に提示すると保険適用の医療費の自己負担限度額の現役並み所得Ⅰ・Ⅱが適用されます。
適用区分が現役並み所得Ⅰ(現役Ⅰ)又は現役並み所得Ⅱ(現役Ⅱ)の方(下表参照)が交付対象者です。
[table id=13 /]
限度額適用・標準負担額減額認定証
自己負担割合が1割の方で、世帯全員が住民税非課税の場合は、申請により「限度額適用・標準負担額減額認定証」の交付を受けることができます。
医療機関等の窓口に提示すると、保険適用の医療費の自己負担限度額の区分Ⅰ・Ⅱが適用され、入院時の食費が減額されます。
適用区分が区分Ⅰ又は区分Ⅱの方(下表参照)が交付対象者です。
[table id=14 /]
長期入院該当
区分Ⅱの減額認定証の交付を受けていた期間における入院日数が、過去12か月で90日(他の健康保険加入期間も区分Ⅱ相当の減額認定証が交付されていれば、通算できます)を超える場合は、申請により、入院時の食費がさらに減額されます。
すでにお持ちの減額認定証に長期入院該当年月日が記載されている方は、改めての申請は不要です。
なお、長期入院該当日は申請日の翌月1日となり、申請日から月末までは差額支給の対象となります。
手続き方法
申請場所はお住まいの区市町村の後期高齢者医療制度担当窓口
- 限度額適用・標準負担額減額認定証申請書(区市町村の窓口にあります)
- 入院日数のわかる医療機関の請求書・領収書など(過去12か月で90日以上入院していた方のみ)
- 保険証
- 認印(朱肉を使用するもの)
- 本人確認ができる身元確認書類(運転免許証、パスポート、個人番号カード等)
- マイナンバー(個人番号)が確認できる書類(通知カード、個人番号カード等)
最後に
いかがでしたでしょうか。
後期高齢者医療制度についてご理解いただけたでしょうか。
この制度は75歳以上の方が安心して暮らせる制度である一方、後期高齢者医療制度の財政は公費が約5割、現役世代からの支援金が約4割となっているため、今後の財政状況や少子高齢化により自己負担額が増加する可能性も十分あると思います。
あくまで万一のとき、自己負担が少なくできるものであると理解し、できるだけ医療機関にかからないように普段からの健康管理を意識して、健康寿命を延ばしていきたいですね。
また、後期高齢者医療制度の高額介護合算療養費については、以下で解説していますので御参考にして頂ければ幸いです。後期高齢者 高額介護合算療養費の限度額、計算、申請をわかりやすく解説
保険料算定については以下を御参照下さい。
後期高齢者医療制度の保険料算定について詳しく解説